少し貯金が増えてきたと思ったところで、転勤が決まる。
引っ越し費用を払い、しばらくすると車や家電の買い替えが重なる。まとまった支出があるたびに、通帳の残高はまた減っていきました。
30代から40代前半の私は、研究を中心に働いていました。臨床を中心に働く医師と比べると、収入は決して多くありませんでした。それでも、家族が生活できないほど少なかったわけではありません。
しかし当時の私は、ほとんど貯金を増やせませんでした。
世帯収入は私一人です。家族4人の生活費や子どもの教育費を負担し、そこに転勤、車、家電などの支出が重なると、少し貯まったお金はすぐに減ってしまう。そんな状態が続いていました。
それでも当時の私は、収入や資産形成について真剣に考えていませんでした。頭にあったのは、研究で成功することだけでした。
後から振り返ると、資産形成を進めるうえで、収入を増やすことは重要でした。実際、私の場合は収入が増えたことで、まとまった貯金ができ、投資にも資金を回せるようになりました。
ただし、収入が増えるだけで、自動的に資産が増えるわけではないことも同時に感じています。
収入だけでは、実際に残るお金は分からない
収入の金額だけを見れば、生活には困らないように見えることがあります。
しかし、同じくらいの収入でも、家族構成や世帯全体の収入によって、実際の生活の余裕は大きく変わります。
当時の世帯収入は、私の給与だけでした。
家族4人の生活費に加えて、子どもの教育費も必要です。転勤があれば、引っ越しや新しい住居の契約にもまとまったお金がかかります。
独身で住居費が少ない人と、家族を一人の収入で支えている人とでは、年間で手元に残る金額は大きく異なります。
そのため、収入の数字だけを見て、
「これだけ働いているのに、なぜ貯金できないのだろう」
と考えても、問題の全体像は見えてきません。
確認すべきなのは、世帯全体で年間にいくら使い、いくら残っているかです。
毎月の家賃や食費、光熱費は把握しやすい支出です。一方で、引っ越し、車、家電、進学など、毎月ではない支出は見落としやすくなります。
私の場合も、普段の生活そのものが大きな赤字だったわけではありません。
しかし、少し貯まった頃にまとまった支出が発生し、また残高が減る。この繰り返しでした。
月単位では黒字でも、数年間で見ると資産がほとんど増えていない。こうした状態は、決して珍しくないと思います。
不定期の支出まで含めて計算しなければ、本当に貯金や投資へ回せる金額は分かりません。
当時は、収入についてほとんど考えていなかった
貯金が増えなかった当時、私は収入を増やす方法について深く考えていませんでした。
考えていたのは、研究で成功することだけでした。
研究で成果を出し、その分野で認められることが何よりも重要でした。臨床医に戻れば収入が上がる可能性はありましたが、その選択肢を現実的に考えたことはありません。
当時の私にとって、研究を離れて臨床中心の働き方に戻ることは、「人生を諦めること」に近い感覚でした。
そのため、収入を増やすために働き方を変えるという発想自体が、ほとんどありませんでした。
お金については、
「目の前の仕事に一生懸命取り組んでいれば、後からついてくる」
と漠然と考えていました。
研究に打ち込んだことを後悔しているわけではありません。
ただ、仕事で何を実現したいかということと、家族の生活や将来のためにどれほどの収入が必要かということは、本来、別に考える必要があったのだと思います。
どれほど大切な仕事であっても、収入や家計について考えなければ、資産は自然には増えていきません。
投資を知っても、すぐには資産形成が進まなかった
収入や家計を長期的に設計していたわけではありませんが、貯金が増えないことへの焦りはありました。
そこで、お金をつくる方法を知りたくなり、私は書店で立ち読みを重ねるようになりました。
そこで『金持ち父さん 貧乏父さん』を読み、投資という考え方を初めて知りました。
それまでは、働いて給与を受け取ることがお金を得る基本だと思っていました。資産を持ち、その資産から収入を得るという発想は、当時の私にとって新しいものでした。
その後は投資に関する本を買い、不動産投資やインデックス投資についても知識を広げていきました。
しかし、投資の知識が増えたからといって、すぐに資産形成が始まったわけではありません。
投資を試したが、継続できる方法を見つけられなかった
30代半ばには、FXの短期売買に興味を持ちました。
口座を開設し、少額ながら実際に取引もしました。投資教材も購入しましたが、結果はまったくうまくいきませんでした。
アパート投資に興味を持ち、不動産会社を訪ねたこともあります。
しかし当時は知識も資金も十分ではなく、相手にしてもらえませんでした。築古戸建への投資も検討しましたが、実行には至りませんでした。
投資には興味がある。しかし、何をどの順番で進めればよいのか分からない。
今振り返ると、この頃は資産形成をしていたというより、「自分にもできそうな投資方法」を探していた時期だったと思います。
その後、研究が忙しくなると投資への関心はいったん薄れ、再び研究で成功することだけを考える生活に戻りました。
生活が回らなくなり、15年ぶりに臨床へ戻った
転機になったのは、45歳の時の転勤でした。
引っ越しに伴う支出に加え、子どもたちの塾代なども増え始めました。それまで何とか回していた家計が、次第に厳しくなっていきました。
そこで初めて、研究を続けることだけではなく、家族の生活を支えるための収入について、現実的に考えざるを得なくなりました。
私はその頃まで、約15年間、臨床の現場から離れていました。
長い空白があったため、臨床へ戻ることに不安がなかったわけではありません。それでも、生活を立て直すために、週末の日当直のアルバイトを始めることにしました。
日当直を始めたことで、それまでより収入が増え、家計にもわずかながら余裕が生まれるようになりました。
この時点で、一気に大きな資産をつくれたわけではありません。
それでも、研究だけを見ていた状態から、収入と家計にも目を向け始めたことは、私にとって大きな変化でした。
増えた収入を、少しずつ投資へ回し始めた
日当直を始めた翌年頃から、私は再び投資に関心を持つようになりました。
家計に少し余裕が生まれたため、トランクルーム投資やインデックス投資を実際に始めました。短期売買を含め、複数の方法も試しました。
すべてがうまくいったわけではありません。
続けなかった投資もありますし、自分には合わなかった方法もあります。
それでも、それ以前との大きな違いは、少額でも実際に投資へ回せるお金が生まれたことでした。
投資について学んでも、原資がなければ動くことはできません。私の場合、収入が増えたことは、資産形成が進み始めた大きな要因でした。
その後、働き方が変わって収入がさらに増えたことで、貯金と投資に回せる金額も増えていきました。
複数の投資を整理し、運用していた資金の一部をアパート購入のために使いました。
この頃から、「何を買えば儲かるか」だけではなく、手元の資金をどこへ配分するかを考えるようになりました。
資産形成には、収入とお金を残す仕組みの両方が必要
私の経験から言えば、資産形成を進めるうえで、収入を増やすことは重要でした。
研究を中心に働いていた時期には、家族4人の生活費や教育費を支えながら、まとまった投資資金をつくる余裕はほとんどありませんでした。
その後、日当直を始め、さらに働き方が変わって収入が増えたことで、貯金と投資に回せるお金も増えていきました。
支出の見直しは重要です。
しかし、教育費や家族の生活費など、簡単には削れない支出もあります。資産形成を進めるには、節約だけでなく、収入を増やすことが必要な場合もあります。
一方で、収入が増えれば必ず資産が増えるわけでもありません。
収入に合わせて生活水準も上がり、増えた分を使い切ってしまえば、お金は残らないからです。
必要なのは、収入を増やすことと、増えた収入の一部を資産として残すことです。
この二つがそろって、初めて資産形成が進み始めます。
今日確認してほしい3つの数字
まずは、次の3つを確認してみてください。
1つ目は、昨年1年間の手取り収入です。
2つ目は、毎月の生活費に、教育費、車、家電、引っ越しなどを加えた年間支出です。
3つ目は、その差額として残る年間の投資可能額です。
投資可能額がほとんど残らない場合は、支出を見直すだけで解決できるのか、それとも収入を増やす必要があるのかを考えてみます。
一時的に当直を増やす、勤務先や働き方を見直す、専門性を生かした別の収入をつくるなど、方法は人によって異なります。
ただし、収入を増やすために健康や時間を長期的に犠牲にしてしまっては、本来目指していた働き方から遠ざかる可能性もあります。
収入だけでなく、負担とのバランスも一緒に考える必要があります。
すぐに大きな投資を始める必要はありません。
まずは、自分が年間でどれだけ投資原資をつくれる状態にあるのかを確認することが出発点です。
資産形成は、将来の働き方を選ぶためにある
資産形成の目的は、他の医師より高い収入や大きな資産を持つことではありません。
仕事を辞めることだけがゴールでもありません。
当直を続けるのか。
勤務日数を減らすのか。
今の仕事を続けるのか。
それを、お金の事情だけで決めるのではなく、自分で選べる状態をつくることが大切だと思います。
そのためには、必要な収入を得ることも重要です。
同時に、増えた収入を使い切らず、将来の選択肢へ変えていく必要があります。
自分に必要な生活を守りながら、年間で残るお金を少しずつ資産へ変えていく。
それが、健康と時間、そして働き方を守るための資産形成だと、私は考えています。


コメント