空室と家賃下落にどこまで耐えられるか 一棟アパートの収支ストレステスト

満室の収支だけで決めず、空室と家賃下落を重ねて確かめるはかせとアパートのイラスト

満室なら黒字になる物件でも、退去が続いたときに同じ生活を維持できるでしょうか。不動産の収支を考えるときは、家賃が予定どおり入らない期間まで見ておきたいと思います。

私も2棟目の購入前には、現地で立地や建物を確認し、家賃下落や空室、金利上昇を織り込んで何度も計算しました。条件が悪くなった場合の収支と、購入後にも修繕に対応できる現金が残ることが、判断の支えになりました。

今回は、そのうち空室と家賃下落に絞って考えます。金利と返済額を変えずに、一つずつ悪化させ、最後に重ねます。将来を正確に当てるためではなく、どの条件で資金不足になるかを知るための試算です。

空室は年間で何か月分の家賃が消えるかを見る

ある日に10戸中1戸が空いていることと、1年間を通じて家賃の10%が入らないことは同じではありません。全室の賃料が同じなら、10戸×12か月の120戸月に対し、空室の合計が12戸月で、年間の空室率は10%です。

賃料が異なる物件では、空室戸数だけでなく、失う家賃の金額で計算します。まず満室なら得られる年間家賃を置き、そこから空室分を引きます。すでに空室を反映した実際の家賃収入に、もう一度空室率を掛けて減らさないように注意が必要です。

同じ物件で条件を一つずつ変える

以下は説明用の仮想例です。私の保有物件や実際の借入条件ではありません。10戸すべて月6万円、満室年間家賃720万円とします。年間返済は元金と利息の合計480万円で固定。固定資産税、保険、共用部維持費などの固定支出を年120万円とし、管理料だけは実際に入る家賃の5%で変動させます。管理料5%は税込の支払額という仮定です。

表の手残りは、実効家賃収入から管理料、固定支出、返済を引いた税前キャッシュフローです。所得税・住民税等、大規模修繕、退去時の原状回復や募集費用は含みません。減価償却費を差し引く会計上の利益とも異なります。

年間条件 家賃収入 管理料 税前手残り
満室・賃料維持 720万円 36万円 84万円
空室10%のみ 648万円 32.4万円 15.6万円
賃料5%低下のみ 684万円 34.2万円 49.8万円
空室10%+賃料5%低下 615.6万円 30.78万円 ▲15.96万円

複合ケースの家賃収入は、720万円×95%×90%=615.6万円。ここから30.78万円、120万円、480万円を引くと、年15.96万円の赤字になります。空室率と家賃下落率は足し算ではなく、それぞれ掛けて計算しています。

家賃5%低下は、全戸の賃料が1年を通じて5%下がった状態を置いたものです。現実には更新や入退去の時期が異なり、全室が同時に下がるとは限りません。管理料に最低料金がある契約などでは、この表より支出が多くなる場合もあります。

赤字額と手元資金をつなげて考える

この例では、空室と家賃下落を単独で見れば黒字ですが、重なると赤字です。満室時の年84万円だけを見て、すべて生活費に使う前提にするのは慎重でありたいと思います。

年15.96万円の不足は、月平均で1.33万円です。ただし、この額だけ現金を用意すればよいわけではありません。生活防衛資金、納税資金、予定している修繕費を先に分け、それでも赤字を補える現金があるかを確認します。家計と物件で同じ預金を二重に当てにしないようにしたいと思います。

年平均の赤字額からは、途中の資金不足が見えにくい点にも注意が必要です。税金や修繕の支払いが先に来れば、年間収支が黒字でも口座残高が足りなくなることがあります。月別に入出金を並べ、最も残高が少なくなる月を確認します。現金が尽きる直前まで待たず、募集条件や支出を見直す時期も決めておきたいところです。

数字の根拠を管理会社に確認する

空室10%、家賃5%下落は、安全性を保証する基準ではありません。地域や築年数、間取り、競合物件によって条件は変わります。試算に使う数字の根拠を確かめるため、次のように聞くと具体的な材料が集まります。

・近い条件の部屋は、退去から家賃発生まで何か月かかっていますか。
・募集賃料と成約賃料には、どれくらい差がありますか。
・フリーレントや広告料、貸主負担の工事費は別にいくら必要ですか。

退去時の費用をすべて借主負担と見込まないことも大切です。国土交通省は原状回復の費用負担についてガイドラインを公表しています。契約内容や部屋の状態を確認し、貸主側で必要な支出も別枠で見積もります。

勤務を増やさずに持ちこたえられるか

不動産の不足分を、いつでも医師の収入で埋められるとは限りません。勤務を減らしたい時期と空室が重なる可能性もあります。家計の現金を取り崩してよいか、追加勤務が必要になるかまで考えると、自分が引き受けられる範囲が見えてきます。

今回固定した金利が上昇し、別枠の修繕費が膨らむこともあります。この表で黒字なら購入してよい、という意味ではありません。まずは手元の収支表で、空室だけ、家賃だけ、両方の3通りを試してください。そのうえで、購入前に確認すべき数字を整理し、資金不足になる条件なら見送る選択肢も残したいと思います。

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