不動産投資を始めようとした頃、私は複数の不動産会社を訪問しました。
当時は医師として働いていたため、融資を受けられる可能性はあると思っていました。自己資金が十分ではないことには薄々気づいていましたが、「もしかすると一棟物件を購入できるかもしれない」という期待もありました。
最初に訪問した会社では、社長が直接面談してくれました。
私が年収や金融資産、家族構成などを正直に伝えると、社長からはっきりと言われました。
「もう少し年収が上がって、金融資産がしっかり貯まってから来てください」
やはり、今の自分では難しいのか。
予想していたことではありましたが、実際に言われると少し落ち込みました。医師であれば融資が出て、何とか購入できるのではないかという期待が打ち砕かれた感覚もありました。
規模の小さなアパートも紹介されましたが、自分でキャッシュフローを計算した結果、見送ることにしました。
振り返れば、この段階で無理に購入しなかったことは正解だったと思います。
医師という肩書だけでは、準備は整わない
不動産会社を回る中で分かったのは、医師という肩書や年収だけで、一棟不動産を購入できるわけではないということです。
自己資金が準備できているか。投資の目的や方針が定まっているか。家賃下落や金利上昇などのリスクを理解しているか。そして、購入後に起こることも含め、自分で責任を負う覚悟があるか。
こうした準備がそろって、初めて具体的な物件を検討できるのだと思います。
当時の私は、まだ投資の軸が定まっていませんでした。そこで一棟物件を無理に追いかけるのではなく、自分にも取り組みやすいトランクルーム投資から始めました。
遠回りに見えるかもしれません。しかし、その経験を通して資金をつくり、自分がどのような投資をしたいのかを考える時間を持てました。
最初の会社とは取引に至りませんでしたが、準備不足を率直に指摘してくれたことには、今でも感謝しています。難しいときには難しいとはっきり伝えることも、信頼できる会社の条件だと思います。
不動産会社によって、面談の姿勢は違う
その後も複数の不動産会社を訪問しました。
面談では、年収や金融資産、家族構成などをできる限り正直に伝えました。不動産は大きな金額が動く事業です。自分を必要以上によく見せたり、都合の悪い情報を隠したりしていては、長期的な信頼関係は築けません。
一方で、不動産会社の対応にも違いがありました。
ある若い担当者との面談では、「お医者さんですか。すごいですね」といったお世辞が多く、私の投資方針やこれまでの経緯について深く話し合うことができませんでした。「とりあえず進めましょう」という雰囲気が強く、最終的には物件の提案を断りました。
現在も取引している会社では、社長が直接面談してくれました。
私は、現在の年収や資産だけでなく、数年前まで研究に従事していた時代の状況についても話しました。
すると社長は、研究の社会的な価値に触れたうえで、「その状態から、よくそこまで貯められました」と言ってくれました。
単に医師という肩書を持ち上げるのではなく、収入だけでは測れない仕事の価値や、これまでの過程まで理解しようとしてくれた。この人とは表面的な営業の話ではなく、腹を割って話ができるかもしれないと感じました。
良い物件は、人の縁から運ばれてくる
最初の面談では、具体的な物件紹介はありませんでした。その後も半年以上、会社から営業の連絡はありませんでした。
当時の私は、トランクルームや株式などに資金を振り分けており、一棟物件を購入するためのまとまった自己資金を準備できていませんでした。
そこで資産を整理し、自己資金が整った段階で、私の方から改めて会社に連絡しました。そのとき紹介されたのが、現在保有している1棟目の物件です。2棟目のときも、自己資金を準備してからこちらから連絡しました。
この会社が積極的に営業してこないことも、私の性格には合っていました。
もちろん、営業をしない会社が必ず信頼できるという意味ではありません。不必要に購入を急かされず、こちらの準備が整った段階で相談できる関係が、私には合っていたということです。
不動産は、人の縁が運んでくる面があります。自分の準備を整え、方針を伝え、信頼関係をつくる。その積み重ねの先に、自分に合った物件との出会いがあるのだと思います。
信頼は、小さな対応に表れる
不動産会社への信頼は、一度の面談だけで決まるものではありません。
社長自身が物件を現地で確認し、周囲の状況まで把握している。管理会社としての報告が丁寧で、連絡への返答も早い。こうした対応を見ながら、少しずつ信頼が形成されました。
以前、郵送された文書の住所が間違っていたことがありました。こちらから伝えると、すぐに謝罪があり、その後は訂正されていました。
会社であっても人であっても、ミスを完全になくすことはできません。大切なのは、ミスを隠さず、指摘を受けたら対応を改めることです。
反対に、不利な情報を隠す、数字の前提を曖昧にする、購入を急かす、質問への回答が変わる、管理上のミスを報告しない。こうしたことが積み重なれば、信頼関係を続けることは難しくなります。
信頼することと、丸投げすることは違う
勤務医が本業を続けながら、すべての物件を専門家と同じ水準で見極めるのは難しいと思います。
だからこそ、物件を一次選別してくれる不動産会社の「フィルター」が重要になります。
ただし、信用できる会社を見つけたからといって、判断まで丸投げしてよいわけではありません。
私は紹介された物件について、税引き前のキャッシュフローが回るか、家賃が下落した場合や金利が上昇した場合にも利益が残るかを確認しました。現地にも自分で足を運びました。
現在の会社からは、これまで2棟を紹介され、2棟とも購入しています。ただ、信頼している会社からの紹介だから無条件で買ったわけではありません。自分で収支や物件の状態を確認し、納得できたから購入しました。
投資は自己責任です。
不動産会社や銀行、管理会社には、それぞれ果たすべき役割があります。しかし、最終的に購入を決める責任まで相手に預けることはできません。
信頼とは、自分で考えることをやめることではありません。信頼できる専門家と役割を分担しながら、最後は自分で確認し、自分で決めることだと思います。
物件を探す前に、一緒に事業を進められる人を探す
不動産投資は、金融商品を一度購入して終わるものではありません。
融資、入居管理、修繕、家賃の見直し、将来の売却まで、購入後も多くの人との関係が続きます。その意味では、単なる投資というより、事業に近い面があります。
勤務医は忙しく、不動産について際限なく勉強することは難しいと思います。
だからこそ、最初から物件ばかりを探すのではなく、自分の状況を正直に話し、長期的なパートナーになれる会社や担当者を探すことが重要です。
最初から一社に決める必要はありません。まずは複数の会社を訪問し、実際に面談してみることを勧めます。
感覚としては、転職の面接に近いかもしれません。その会社が自分に合っているかをこちらが見ている一方で、相手も、私たちが一緒に事業を進められる投資家かを見ています。
業者を上から評価するのではなく、自分の状況も誠実に開示し、お互いがパートナーになれるかを確かめる。
良い物件を見つけることは、もちろん重要です。しかし、その前に、良い物件を一緒に探し、購入後も責任を持って関わってくれる人と出会えるか。
不動産投資では、物件そのものと同じくらい、「誰と組むか」が重要だと考えています。


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